短編>夏目という名

ジャンル>二次創作

「夏目友人帳」

 

内容・傾向>ほのぼの

 

注意>

※アニメ肆期に出てきた、夏目の生家を観て影響を受けた結果。

※貴志の父視点。そんでもって設定色々捏造してるので注意。

 

了承された方のみ、続きをお読みください☆

 


 

夕暮れ時も過ぎ、暗くなった空に星が一つ二つ瞬きはじめた時刻。

灯りがないのを少々心許なく感じる、両側に雑草が生い茂る舗装もされていない土道を辿り、暫く歩くとようやく自宅が見えてきた。

街から少し離れた森の木立の中に佇む家。

数年前まで空き家だったというのを手直ししたので、新居と呼ぶには見た目は年季が入っているが、僕は気に入っている。

油を注しても尚、ぎいっとさび付いた音を立てる門扉を押し開くと、雨ざらしで色褪せ蔦が絡まるしっくいの壁が見える。

押すとブザーの鳴るような音がする古いタイプの呼び鈴。その上方には古びた物が多い中で唯一、眩しいくらいに輝く真新しい木製の表札。

そこにはたった二文字の漢字が刻まれている。

 

『夏目』――僕の新しい苗字だ。

 

僕が一目惚れし、心から一緒にいたい、一生を添い遂げたいと思った女性の苗字。

妻になって欲しいと告げた時、彼女が唯一の条件として提示してきたのが『夏目』という姓を継いで欲しいというものだった。

普段穏やかな彼女が必死な顔で頼み込んできたので、僕はかなり驚かされたけれど、一瞬の後に頷いて承諾した。

 

鍵を差し込んで捻ると、引き戸はガラガラと少し大きな音を立て開く。

これも少し古めかしいけれど、言い換えれば、僕好みの味のある趣向だ。

この音を聞くと、家に帰って来たなぁという実感が沸く。

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい」

 

僕の声を聞きつけて、エプロン姿の妻が玄関へ出迎えに来てくれる。

彼女の背中越しの台所からは美味しそうな夕餉の香りが漂ってきて、僕の鼻腔と胃は大いに刺激された。

 

「ただいま、今夜はカレーかな?」

 

「残念♪今夜はハヤシライスよ」

 

そう言っていたずらっぽく笑う彼女。

花のように愛らしい笑顔に、僕は初めて会った時からずっと恋をしている。その笑顔に何度癒され、元気を貰ってきただろう。そんな女性と今では同じ屋根の下で暮らし、毎日のように玄関で出迎えてもらえるなんて、なんと幸せなことだろうと、僕はその幸運に今更感謝する。

僕はかがみこんで、彼女のお腹の中に宿る、“もう一人の家族”にも話しかけた。

 

「ただいま」

 

近ごろ、声や音にも時折反応するようになった“それ”は、生命の神秘を感じさせる。

僕につられるように視線を下ろした彼女は、その手でお腹を優しく愛おし気に撫ぜた。

 

 

 

親戚が多い自分とは異なり、彼女は天涯孤独の身だった。

彼女に似た雰囲気を漂わせていたという彼女の母親は、若くして彼女を身ごもり、一人で産み、そして独りで亡くなったという。

最後まで父親の名前は誰にも告げなかったというから、彼女どころか周囲の人間さえ、誰一人として父親の顔どころか名前も知らない。

彼女が名乗っている名も、育ててくれた施設の人が付けてくれたものだという。

 

そんな彼女にとって、母との唯一の繋がりを感じられるのが『苗字』なのだろう。

“夏目”という苗字は母とのただ一つの接点だから、と話す時、彼女はどこか切なげで愛おし気な色を宿した表情をする。

だから僕がその名を継ぐと了承した時、そして――新しい家族が増えると知った時、同じ苗字の人が増えるのね、と彼女はとても幸せそうな顔をしていた。

そんな境遇もあってか、名づけにも人一倍こだわりがあるようで、子供の名前は未だに決まらない。

大分、候補は絞り込めてきたが、まだまだ時間はかかりそうだ。

 

「ちょっと温め直すから、先に着替えてきて」

 

くるりと踝を返し、エプロンの紐を揺らしつつ台所へ戻っていく彼女の後ろ姿を、僕は見送った。

施設育ちの彼女にとって食事というのは、“全員揃ってワイワイ食卓を囲むもの”という概念がついているらしい。

だから、彼女は滅多なことでは独りで食べようとしない――流石に身重となった近ごろは、身体のことも考えて無理はしないようになったようだが。

僕が仕事で遅くなると言っても、寂しがり屋でもある彼女は意地を張って待っていることが多かった。

そんな頑固な一面もある彼女と、最初は我慢比べをしていた僕だが――結局僕があっけなく白旗を揚げ、毎日できる限り早く帰れるように努める羽目になった。

――とはいえ、彼女と一緒に囲む食卓は、常に温かで幸せで、それはそれで頑張って早く帰っただけの価値があるのだけれど。

 

 

 

家の中は、台所や風呂場などを除き、基本的には部屋の床には畳が続き、それが襖と障子で仕切られ部屋となっているという、純日本家屋な構造だ。

廊下はこれまた年季の入った木造の長い渡り廊下。その廊下を歩いたその突き当りに、書斎兼僕等の寝室部屋がある。

障子を開けた部屋の奥、壁の角に鎮座するのは、これもまた年季の入った桐でできたらしい箪笥《たんす》。これも前の住人が家と共に置いていった家財道具の一つだ。

鞄は文机の上に置き、箪笥の戸を開けて、ネクタイを外す。続いて、皺にならないように注意を払いながら、スーツをハンガーにかける。

この箪笥に入れるほどの沢山の種類・高価な服は持ち合わせていないのだが、元々良い素材の物だったらしく、まだまだ現役で使えそうなのと――動かすには人手が必要そうなので、これ幸いと使わせてもらっている。

物件を探していた時、この箪笥を発見した彼女は『まるで漫画や映画で観た昭和のワンシーンよね』と目を輝かせてたっけ。こんな家に住めたら夢心地で素敵よね、と。

 

――そうそう、夢といえばもう一つ。

 

ラフな格好に着替え、食卓へ戻る途中の、庭に面した渡り廊下で僕は足を止めた。

夏には風鈴を吊り下げ、蚊取り線香を置いたらさぞかし似合うだろう、昭和らしい趣きのある庭付きの縁側。

遠くには山も臨めるその庭も、最初は雑草で荒れ放題だった。それを整地し、耕してどうにかこうにか、ささやかな花壇をこさえた。

出来立てほやほやの花壇には、ふかふかの真新しい土の中が盛られ、みずみずしい植物の若葉が芽を出している。

花壇に植えた植物の種類を彼女は未だに教えてくれない。花が咲くまでのお楽しみ、ということらしい。

花が咲くということと、植物に疎い僕でも見れば分かる植物らしい、という情報しかない状態だ。

 

家を買う時に彼女がこだわった条件の一つが“庭つきの一軒家”だった。

以前からガーデニングというものに興味があったらしい。それもプランターではなく、ちゃんと庭の土で育てたいというこだわりよう。

理想と予算を天秤にかけ検討した結果――街からは少し離れた立地になってしまったが、彼女は夢が叶って満足そうだし、僕自身も静かに暮らすというのは嫌いじゃない。

引っ越してから気が付いたのだが、朝に窓から差し込む陽ざしや鳥の声で目覚めるというのは中々に爽やかな気分になれる経験だ。

毎日が新しい発見に満ちていて鮮やかだということ、自然に囲まれた生活をしているとその事をより一層感じる。

都会の喧騒を離れ、僕と彼女、そしてもうすぐ生まれてくる子供と一緒に過ごせるのは、ささやかだけれど満ち足りていて幸せな生活だと思う。

 

「貴方、ごはんにしましょう」

 

遅い僕を見かねてか、食卓の方から僕を呼ぶ声が聞こえる。

その声に返事だけをして、僕はもう一度庭へ視線を送る。そして次なる催促の声に急かさせる前に、彼女の待つ食卓へと向かった。

* * *

アニメ肆期のラスト辺りを見ての感想。

夏目母は何故、夏目姓を名乗っていたのかという妄想から発展した産物。

 

チビ貴志を出そうか悩んだけれど、夏目母がいつ亡くなったのかはっきりしないので没に。

代わりに夕食を同じにして、ささやかな共通点を作りました。

 

[ 2017/08/10 00:01 ] 物書き書庫 | TB(-) | CM(-)
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