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短編>貴志とカバン

ジャンル>二次創作

「夏目友人帳」

 

内容・傾向> ほのぼの

 

注意>

※アニメの続(弐期)と参期の間に、通学鞄が革の手提げから緑のショルダーバッグに変わった理由を妄想してみた。

 

了承された方のみ、続きをお読みください☆

 


 

――“我を守りしものよ、その名を示せ”

 

その声に答えるかのように、手の平に置かれた古ぼけた一冊の和台帳のページが風も無いのに、さらさらとめくられていく。そして一枚の用紙がピタリと直立した状態で止まった。

それを慣れた手つきでサッと抜き取り、口に咥える。そのまま、パンと両手を胸の前で打ち鳴らすと同時に、虚空へ向けて息をふっと吐き出す。

人には読めぬ文字の群れが空へと浮かび上がり、眩い光と共に持ち主の身体へと吸い込まれ還っていく。

 

『夏目さま、ありがとうございました』

 

白い毛布のような形をしたものは、器用に礼儀正しく一礼すると、ひゅるひゅると空へ舞い上がり、遠く山の向こうへと消えていった。

 

「……はぁ、疲れた」

 

軽い眩暈を覚え、学ラン姿の少年――夏目 貴志は、人目がないのをいいことに草むらへと仰向けに倒れ込んだ。

周りには自分以外のひと気はない、緑豊かな田舎の畦道《あぜみち》。

少し休憩してから帰ろう、と決めた貴志は、寝っ転がったそのままの状態で空を仰いだ。

そよそよと心地良い風が淡い色の髪を揺らしていく。

その風が駆ける空を、貴志がぼんやりと眺めていると、先ほどの相手と似たような形の、タオルのように薄っぺらい、白い何かがひらひらと飛んでいく。

多くの人々の目には見えぬだろう、それは――恐らく“妖怪”といわれるものの類。

 

幾分か眩暈も収まったので、貴志は傍に落ちていた古びた緑の和台帳を拾い、立ち上がる。

その表紙には飾り気のない流暢な文字で『友人帳』とだけ記されていた。

 

 

 

“友人帳”とは貴志の祖母にあたる、『夏目レイコ』がその生まれ持った強い妖力を武器に、出会う妖怪に片っ端から喧嘩を吹っ掛け(言うまでもなく全勝し)、その勝った証として妖怪たちの名前を書かせた用紙を集めた代物である。

祖母がそれで何をしたかったのか(一説では、単に日頃の鬱憤を晴らしたかっただけだったとも)は定かではないが、血の繋がった家族のいない貴志にとっては、数少ない家族の繋がりを実感できる大切な品である。

――それを受け継いだことにより、厄介なことに巻き込まれるようにもなったのだが。

 

友人帳に記された名には力が宿る。

名を記した相手を未来永劫、縛り続ける契約書だ。

無理矢理な命令をして従わせたり、時には苦痛を与えることも可能である。

そんな物騒な使い方もできる代物だが、生憎貴志には妖をつき従わせようなどという野望はない。

だから、祖母に名前を奪われた妖たちに名を返す、という半ば慈善事業のような行動を貴志は続けている。

 

名前を返す、即ち契約の解除の術式に必要なのは、“術者の唾液と息”。

祖母の血を継ぐ強い妖力を持ち、その要件を満たせるのは現在、貴志しかいない。

妖に名を返して得られるのは、一瞬の走馬燈の中に浮かぶ、若かりし頃の祖母の姿と――眩暈に似た倦怠感である。

 

 

 

そんな疲労も相まってか、歩き慣れた帰路をぼんやりと考え事をしながら歩いていた貴志は、住宅街の曲がり角から飛び出して来た丸っこい物体に、危うく衝突してしまいそうになった。

 

「うわっ!?」

 

ふいを突かれ、驚きの余りそんな声と共に思わず尻もちをついてしまう。その衝撃により、通学鞄は弾みで手を離れていった。

腰の辺りをコンクリートに思いっきり打ち付けた痛みに、少し涙目になりながらも、貴志は曲がり角から飛び出してきた物体の正体を確認する。

 

饅頭を思わせる白く丸っこい身体に、身体に不釣り合いなほど小さく短い足。

黒と茶の柄のある巨大な頭に、小さな三角耳と半月型の大きな目。

 

「……なんだ、ニャンコ先生か」

 

よく見知った正体に、貴志はホッと息を吐き出す。

 

『なんだとはニャンだ。折角、私が直々に迎えに来てやったというのに、その言い草は!』

 

開口一番、三毛猫のような容姿をした“それ”は、不満げな愚痴を溢す。

そして、とてとてと数歩歩いて貴志に寄って来ると、ひくひくと鼻を動かした。

 

『帰りが遅いと迎えにきてみれば……また低級の妖に絡まれておったな』

 

「名前を返していただけだよ」

 

そう言いながら夏目は立ち上がり、学ランに付着してしまった砂埃をはたき落とす。

足元では、また友人帳が薄くなったわ、などとぼやいている自称:用心棒兼居候(?)がいるが毎度のことなので気にしない。

 

一応説明しておくが、貴志の傍らにいるのは、見た目はただの丸っこい三毛猫(ブタネコや白饅頭などの異名もあるが、本人が機嫌を損ねるのでお勧めはしない)だが、その正体は『斑』という名の上級の妖である。

永らく招き猫に封印されていたのだが、ひょんなことからその封印を貴志が解いてしまい、紆余曲折経て現在は、貴志が身を寄せる藤原家に第二の居候《ペット》として住まわっている。

本来の姿は白く大きな獣に似た姿の妖なのだが、長年招き猫に封印されていたのが原因で、依代《よりしろ》の姿が定着してしまったらしい。

かといって、元の姿に戻れないという訳でもなく、姿を変えるのも自由自在なのだが、そうすぐに戻る様子がないのをみると、本人(本猫?本妖?)も、この姿で過ごすこともまんざらでもないようだ。

 

貴志がくるりと周りを見渡すと、通学鞄は三メートルほど先の電柱の近くに落ちていた。

歩いて近づき、かがんで拾いあげる。

手持ちタイプのよくある革製の黒い通学鞄である。表面は加工してあるので、布地の学生服より、軽くはたくだけで楽に土埃などは落ちるが、それでも所々傷みが見られる。

一応、名誉の為に説明しておくと、これは貴志の物の扱いがぞんざいなのではなく、妖関連のごたごたへ巻き込まれた結果、生じた傷である。

 

友人帳を持つが故、貴志は妖たちに四六時中つきまとわれ、誘拐された経験も数えきれない程ある(不名誉ながら、妖に誘拐された回数なら人間界ぶっちぎりのナンバーワンだろう)

押し倒されたり、はたまたどこかへ連れていかれたり――高校生である貴志にとって、過ごす時間の多い学校の備品は、同時に巻き込まれ傷みやすいものでもある。

貴志が今の高校へ編入する際に、居候先である藤原夫妻が揃えてくれた品物だったのだが、残念ながら卒業まで持つ気がしない。

特に友人帳を入れて歩く鞄は、友人帳を寄越せという妖と引っ張り合いになったり、先ほどのように衝撃でふっ飛ばされたりするので、余計に損傷が激しいのだ。

 

「流石にそろそろ替えるべきかな……」

 

『何か言ったか?』

 

ぽつりと呟くと、いつの間にか隣に来ていた斑が首をかしげながら見上げていた。

何でもない、と貴志が首を振ると、そうか、と言うなりさっさと歩き出してしまう。

そして数メートル程歩いたところで振り返り、不機嫌そうな口調で言った。

 

『おい夏目、何をぐずぐずしている。さっさと帰るぞ』

 

時折“ニャツメ”とも聞こえるこの呼び名にもすっかり慣れてしまった。

死後友人帳を譲るという口約束の元、用心棒として生活しているはずなのだが、今日のように妖絡みで巻き込まれているという時に限って現れない、全く仕事をしない様子を見ると信憑性には欠ける気がする。

 

貴志を先導するように歩く斑は、時折空を飛んでいく鳥を目で追ったり、塀の上に飛び上がったかと思うと庭にいる犬をおちょくったりしている。その様子は完全に猫だ。

その様を微笑ましく眺めながら、貴志はぼんやりと考え事の続きにふけった。

 

通学鞄はまだまだ使おうと思えば使えるレベルだが、あまり見た目がみすぼらしい物を使うというのにも抵抗がある。

藤原夫妻にお願いすれば、快く新しい物を買ってもらえるとは思うが、まだ使えるのに勿体ないと遠慮する部分もある。昔から居候暮らしで親戚の家を転々としていたので、お下がりの物を貰うのに慣れているのもあるかもしれない。

 

運動部の生徒のように、エナメルタイプのスポーツバッグにするという手も一時考えた。

一応貴志もショルダータイプのスポーツバッグを持ってはいるし、校則にも違反はしない。

――ただ、あれは思い入れがあるので、むやみに傷つけたくないのだ。

こちらへ来てはじめてできた友人である、西村や北本たちとはじめて旅行に行くことになったと報告した時に、藤原夫妻が記念にと贈ってくれた品なのだ。

今までの人生で贈り物(それも新品の)をあまり貰ったことのない貴志には、とても嬉しい出来事で大切に使おうと胸に誓ったのだ。

 

新しい鞄を買うにしても、そう安い買い物ではない。規定では華美ではないもの、程度だったと思うので、指定のメーカーの物を買わなければいけない訳ではないのだが、やはりある程度の頑丈さは欲しい、とすると必然的に値段は張るようになる。

他にお金をつぎ込む趣味がある訳ではないし、衣類などにもこだわりはないが、特にバイトをしている訳でもない田舎の高校生にとって、唯一の収入源である貯金を切り崩すのは勇気のある決断だ。

無論、友達との付き合いに金を残しておきたいという部分もある。

夏目貴志、高校二年生――悩みの多い年頃である。

 

 

 

などと考え事をしている間に、気が付けば藤原家に到着していた。

斑も一緒に家に入るのかと思いきや、玄関で見かけた蝶々を追いかけてそのまま庭の方へと行ってしまった。

 

「先生ー、畑は荒らすなよ」

 

消えていく丸っこい後ろ姿に、一応声を掛けながら、貴志は都会ではすっかり見かけなくなった、引き戸式の玄関扉をガラガラと開ける。

 

「ただいまー」

 

その声に応じるように、家の奥から一人の女性が姿を現した。

 

「あら貴志くん、おかえりなさい」

 

そういって出迎えてくれたのは、白の割烹着姿が似合うこの家の住人、藤原塔子である。うなじで結い上げまとめた黒髪と、ぱあっと輝く笑顔が愛らしい女性である。

料理上手なこともあって、調理器具を片手に日々キッチンに佇む姿は様になっているのだが――何故だか今日に限っては、その手にはハタキが握られている。

 

「塔子さん、どうしたんですか、それ?」

 

「あぁ、ごめんなさい。衣替えしようと押入れを開けたら、色々懐かしいものが出てきちゃって。それでついでに掃除してたのよ」

 

見れば、彼女の出てきた部屋から廊下まで段ボールが幾つか溢れている。綺麗好きで家の中をすっきりとさせている彼女にしては珍しい。

慌てた様子で、今片付けるから、という塔子の背中に向かって、貴志は手伝います、と声を掛けた。

 

塔子に続いて足を踏み入れた部屋には、大小様々な荷物が散らばっていた。

とはいえ、一応段ボールの合間には隙間があり、足の踏み場には困らない程度だ。

 

「じゃあ、貴志くんは押し入れに近い、大きい段ボールから順にしまってくれる?」

 

「分かりました」

 

そう言うと塔子は、まだ整頓途中だったらしい荷物を仕分けする作業に戻った。ただ、今回はこれ以上作業をするつもりはないらしく、箱の外に出ている物を中にしまうことに徹していた。

蓋のない箱などはビニールでカバーをし、中身の見えない段ボールなどであれば、中身が判別できるよう側面などに中身の名称を書く。

そうして塔子によって分類された箱を、貴志は中身が書いてある面が見えるよう、手際よく押入れの中へ戻していく。

 

作業を開始して暫く――貴志がある段ボール箱を持ちあげようとした所、箱の底が抜けて中身が雪崩状にこぼれ落ちてしまった。

 

「うわっ!?」

 

足の上にも中身がどさどさと降り注いだが、中身は軽い布状のものばかりだったので、足を痛めなかったのが不幸中の幸いだ。

 

「まぁ貴志くん、大丈夫?」

 

「平気です。落としちゃって、すみません」

 

心配そうに声を掛けてきた塔子に、貴志は安心するよう微笑んでみせる。

貴志が怪我をしていないことを確かめてから、塔子は貴志が手にしていた段ボールを手に取り、ひっくり返す。

よく見ると箱の底部分がかなり傷んでいた。持ちあげた感覚ではそこまで重い感じはしなかったので、中身の重さが影響したというよりも、箱自体が古いものだったことが影響し、持ちあげた弾みで傷んでいた底が抜けてしまったようだ。

 

「また繰り返すと危ないし、新しい箱に詰め替えた方が良さそうね」

 

そう言うと、塔子は部屋の隅に置かれていた空の段ボールとガムテープを取りに行った。

塔子が戻ってくるまでの合間に、貴志は散らばってしまった中身を拾い集める。

手作りらしいポーチのようなものやティッシュカバー、マスコットやぬいぐるみなど色々な物が転がっていた。その中でひときわ大きな、若草色の布地の物体が目に留まり、貴志は作業の手を止めた。

その巨大な布地の物体の正体は、春の若草を思わせる落ち着いた色合いの、飾り気のないショルダーバッグだった。手に取ってみると、思ったよりも生地に厚みがあり意外と頑丈そうな作りである。

 

「どうしたの?」

 

貴志の手が止まっていることに気付いた塔子が、そんな声と共に手元を覗き込み、あら見つかっちゃったわ、と少し恥ずかしそうに頬を染める。

その反応を見て、貴志は一つの可能性に思い当たった。

 

「……もしかしてこれ、塔子さんが作ったんですか?」

 

「ええ。一時期手芸に凝っていた時があってね、その頃に作ったのよ」

 

はにかみながら塔子が肯定する。

 

「作ったはいいけど、人にあげる訳でもなく仕舞いこんでてね。何度か処分しようとは思ったんだけど。もう駄目ね、思い入れのある物ってどうしても処分できなくて」

 

貴志は改めて手にしたバッグに視線を落とした。

塔子が昔に作ったというが、しっかりした布地を使っているのもあってか、とてもそんな年季は感じさせない。

かぶせ蓋のついたタイプのショルダーバッグで、かぶせ部分を捲って中を開けてみると、中にも仕切りポケットなどがついており、便利そうだ。

立ち上がり、実際に身体のラインに合わせてみたが、バッグの大きさも紐の長さも貴志に合わせてあつらえたように丁度良い。

 

「……あの、これ貰ってもいいですか?」

 

貴志のその発言に、塔子は目を丸くして、その後慌てたように胸の前で両手を振る。

 

「ええ!?だって、でもわたしが昔作ったものよ」

 

そしてバッグに視線を移しながら、言葉を続けた。

 

「色褪せてるし、それに古いからすぐ壊れちゃうかもしれないわ」

 

「そんなことないですよ、市販の物に負けないくらい頑丈そうですよ。それに俺、ちょうどこんな感じの鞄が欲しいと思ってたんです」

 

そう貴志が微笑みながら言うと、塔子は少し困ったような、でも嬉しそうな表情になった。

 

「そう、貴志くんがそこまで気に入ってくれたのならあげるわ」

 

そのまま壁の掛け時計を見上げた塔子は、あっと声を上げる。

 

「いけない、もうこんな時間! お夕飯、すぐに用意しなくちゃ」

 

慌てる塔子に、こちらの片づけは任せてください、と貴志は請け負う。

お願いね、と申し訳なさそうに言い残し、パタパタと急ぎ足で台所へ向かう塔子の後ろ姿を見送ってから、貴志は荷物の片づけを再開した。新しい段ボールは二の舞にならないよう、底をガムテープで二重に目張りしてから、バッグ以外の中身を入れる。

幸い、塔子の仕分け作業は殆ど終わっていたので、押し入れに分別の済んでいる・済んでいない箱の区別がつくように仕舞うだけで、貴志の作業は終了した。

 

2階の自室に戻り、貴志は新しいカバンを勉強机の横に置いた。

そして、ふともう一度蓋をめくり返してみる。

――塔子には言わなかったが、ここにもう一つ貴志がこのかばんを気に入った理由がある。

 

カバンの蓋をめくった縁、その角に小さく刺しゅうされた文字。

若草の布地の中で、控え目ながらも存在を主張する深緑の糸で刺しゅうされたアルファベットの大文字のT。

制作者である“塔子”のイニシャルのTなのだろうが、偶然にも“貴志”のイニシャルも同じTである。

これを見つけた時、自らの名前が入っているように思え、貴志は嬉しかったのだ。

 

部屋の空気を入れ替えようと、貴志は窓を開ける。

見下ろした庭では、斑がまだ同じ蝶々を追いかけているようだ。風に乗って、一階から塔子の作る夕餉の匂いも漂ってくる。

そういえば、今日はハヤシライスと言っていたっけと貴志と思い返しながら、塔子に呼ばれるまでぼんやりと外の様子を眺めていた。

 

* * *

ショルダーバッグって便利だよねという話と、可愛い塔子さんが書きたかっただけ。

塔子さんマジ天使!!

 

最近、本編で友人帳の名を返す場面が少なくなってちょっと寂しかったり。

ちなみに最初の場面で空をヒラヒラ飛んでいく妖の姿は、某妖怪漫画で有名な一反木綿をモデルにしてたりする(笑)

 

[ 2017/08/10 00:00 ] 物書き書庫 | TB(-) | CM(-)
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