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短編>明日天気にしておくれ

ジャンル>二次創作
「ポケモン不思議のダンジョン 空の探検隊」
 
内容・傾向>原作沿い、シリアス
 
注意>ネタバレを含みますので、閲覧は自己責任でお願いします。
 
了承された方のみ、続きをお読み下さい☆
 

 



「おかえり、リオ♪」

「リオ、お疲れさん」

 

そう、もう僕と――じゃないんだ。

お帰りなさい、と呼ばれるのは僕の名前だけ。

 

**明日天気にしておくれ**

 

「お帰りなさい、リオさん」

そう初めて呼んだのはラプラスだった。

……うん、ただいま」

「疲れたでしょう、ボクの背に乗って休んで下さい。着いたら起こしますから」

……うん」

来たときより『二匹』も少なくなっているのに、何も尋ねないでいてくれる彼の優しさが有難かった。

――
いやあるいは、ラプラスは悟っていたのかもしれない。

『彼ら』は自らの存在さえも掛けて、世界を救おうとしていたのだと。

そんなことをぼんやりと考えながら、疲れていた僕はラプラスの背で眠りについた。

 

気がつけば、そこはトレジャータウンの外れの浜辺で。

空はもう夕焼け空というより、星が一つ二つ瞬く時間になっていた。

ここまで運んでくれたラプラスにお礼を言って、その姿を見送った後、一瞬ためらいながらも僕の足はギルドへと向かった。

深呼吸して見張り穴の上に立つ。

すぐに僕の帰還を知らせる声がして、まずディグダが一番乗りで顔を覗かせた。

続いてギルドの中から次々と仲間達の姿が現れ、そして最後にはプクリンの親方の姿も。

――
『あの時』と同じ光景に、僕はまた泣きそうになった。

「おかえり~

「ただいま」

泣きそうな心を必死に抑えて、僕は親方様の言葉に答えた。

 

それからは忙しかった。

皆に今回の事件の真実を伝えるために、北へ南へ行ったり来たり。

まだ災害も完全に収まったわけじゃないから、その手助けに東へ西へ。

事件から帰ってきてきても、変わらない忙しい日常。

――
だからこそ、考えずに済んでいたのかもしれない。

食事の時に隣が空席でも、ビッパがドゴームのいびきが煩くて眠れないので、部屋を使わせて欲しいと言ってきても。

 

ある日、久々にできた休み。

仕事も用事も何にもない、一日ずっと自分が自由に使える日。

さて何をしようか?

カクレオン商店に行って新商品でも試してみようか、あるいは温泉に浸かって日頃の疲れを癒すのもいいかもしれない。

パッチールのカフェに居座って、ポケモン観察するってのも面白いかも。





でも、すぐに気がついた――どの選択肢も、自分が本当に望んでいることではないと。

僕が望んでいるのは、例えば商店の店先で何を買おうか考えている真剣な横顔を眺めていることだったり、どちらが長くお湯に浸かれるか無益な勝負することだったり、カフェでくだらないことを言い合うひと時だったり。

隣を歩いていた存在を、僕は常に心の何処かで探してばかりいた。

――
『あの別れから』心の一部がぽっかりと空いていることに、僕は今更気づかされた。

 

結局、その日はぼんやりと部屋にこもって荷物整理をしていた。

トレジャーバックをひっくり返すと、道具と共に少しばかりのゴミも出てきた。

思えば最近忙しくて、きちんとした道具整理をしていなかった気がする。

どおりでこの間、バッグがキツイと思った訳だよと、僕は苦笑した。

――
そして冒険前には必ずと言っていいほど、バックの中身を確認していた『あの姿』を思い出した。

 

これはあなぬけのたま。毎回使うから予備としてもう一個入れておこう。

オレンの実は何個かあったけれど、確か一個オレソの実が混ざっていたような?

奥から出てきたのはただのタネ。これは、この間のふっかつのタネの残骸かな。

 

気がつけば、僕は時間を忘れて黙々と作業していた。

やっと中断できたのは、手元に射す柔らかな光に気づいた時だった。

窓を見れば外は柔らかなオレンジ一色に染まっている。



――今日のような天気なら、浜辺はすっごく綺麗だろうな。

そう思うと急に、僕は海岸に行きたいと強く思った。

残った道具を適当に片付けると、部屋を出る。

ギルドの入り口ですれ違ったビッパの声に返答はしたけれどそれは生返事で、言葉なんて殆ど頭に入ってこなかった。

 

辿り着いた夕暮れの海岸は美しかった。

空も海も、夕日によってどこまでもオレンジに染められていて。

クラブたちの吐く泡が、キラキラとその光を映しながら、漂っている。

いつだって僕の心を慰めてくれるその景色に、僕はどこかほっとしたと同時に、寂しさも覚えた。

 

――
だって、隣にはこの景色を綺麗だと言ってくれる『君』が居ないから。

そう思った瞬間、色々な思い出が溢れ出てきた。

 

この海岸で初めて出会って、探検隊になろうって誘ったあの日。

不思議な力で、ルリリをスリープの手から救い出したあの日。

探検隊としての初めての探索、滝つぼの洞窟。

勇気を持って立ち向かった、ギルドの初遠征。

不安で仕方なかった未来世界で、僕を励ましてくれた言葉。

そして――君が最後に告げた、別れの言葉。

 

気がつけば、枯れたはずの涙がまた頬を伝って、砂浜に染みを作っていた。

抑えようにも抑えられなくて――僕は砂浜にうずくまって泣いた。

途中で心配してやってきたビッパに抱きついても、涙は止まらなかった。

 

悲しくて悲しくて、君が居ない現実がとても寂しくて。

君がとても大切な存在だったんだって、月日が経ってやっと気がついた。

 

それをビッパに話したら、彼はうんうんと頷いて話を聞いてくれた。

やっぱり、なんだかんだいって先輩は頼りになる、と僕は思った。





気がつけば、辺りは少し暗くなり始めている。一番星も数えられそうだ。

やっと泣き止んだ僕は、さぁ帰ろうと立ち上がる。

ギルドでは今夜も美味しい晩御飯が待っているだろうから。

しかし、隣のビッパは一点を見つめて動きだそうとしない。

一体どうしたの?と僕は振り返り――動けなくなった。

 

――
そんな、そんな奇跡があるのだろうか。

夕暮れの光が見せている幻なんかじゃないか、と僕は疑いたくなった。

駆け寄ったら、名前を呼んだら、かき消えてしまうんじゃないかと。

 

そんな僕の心配をよそに『君』は笑った。

 

「ただいま、リオ」

 

さく、さくさく。

砂浜を踏みしめる足が段々と駆け足になっていく。

そして僕はしっかりと君を抱きしめた。

夢じゃないよねと確認するように、会えなかった時の寂しさを伝えるように。

止まったと思っていた涙は、まだ止まっていなかったみたいだ。

 

深呼吸して、ギルドの入り口に立つ。

ギルドに入門しようとやってきた時とちょっと似ている。

……
違うのは、今日の方が少し時間が遅いってことと、君が緊張しているってこと。

ギルドの皆はどんな顔をするだろうか?

僕はいたずらを仕掛けているような気分になって、ちょっぴり楽しくなった。

見張り穴の一歩前で振り返った君に、僕はこくりと頷いて合図を送る。

君が見張り穴の上に立つ。

 

「足型は――

 

ここからは聞こえないはずの、見張り番の声が心の中で聞こえる。

ギルドの中から、入り口に詰め掛けてくる騒音が聞こえてくる。

出てくる顔は皆、驚きに溢れていて、でもそれはすぐに仲間の帰りを迎える笑顔に変わった。

 

「おかえり!」

 

僕らは顔を見合わせた後、声を揃えて元気よく答えた。

 

「「ただいま!」」

 

* * *



空チャプター(メイン)シナリオクリア時の記念品。その日の内に勢いで書き上げました。

主人公が居なくなって~帰ってくるまでの、相棒の日常。

君という言葉を後半まで出さないように、工夫して書き上げられたのがお気に入り。

あと最後の流れを付け足しできたのも。

……主人公二言しか台詞ないけど、ゲームでも無口だからいいよね(笑)



 



(2019.4.17 改題&加筆修正 元題:「本当のただいま」)



タイトルは映画「セレビィ時を越えた遭遇」EDより。



[ 2011/07/09 00:05 ] 物書き書庫 | TB(-) | CM(-)
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